タンパク3000プロジェクトにおいて、「転写・翻訳」および「細胞内シグナル伝達」の二つの中核機関が北海道大学ポストゲノム研究センターを拠点として活動してきた。それぞれ、X線結晶構造解析、NMRの分野で独自の技術開発を進め、その成果はプロジェクト内ばかりでなく国内外で高い評価を受けている。しかし、X線結晶構造解析、NMRはそれぞれ結晶状態、溶液状態と相補的な構造情報を提供する点で、二つの方法の特徴を生かして連携して研究することは、タンパク質の機能を理解する上で計り知れないメリットを持つ。そこで、ポストゲノム研究センター内に、新たにタンパク質解析イノベーションハブを設立し、二つの中核機関の持つ構造解析技術および関連技術について統合あるいは密接な連携を進める。X線結晶構造とNMRを連携することによりタンパク質構造解析技術の高度化をはかるとともに、応用研究へと展開するために必要な新しい基盤技術を開発することを目指している。
X線構造解析
我々は蛋白質の立体構造解析を全自動で行うこ
とを最終の目標として研究を進めている。そのた
めに、まずは、全自動構造解析の最も大きな障害と
なっている「構造の精密化」過程を自動化するソフ
トLAFIREの開発を行い、世界初の人が介入すること
のない精密化を実現した。このLAFIREシステムのさ
らなる拡張として、今年度は、薬剤リード化合物の
探索に最も有効な方法として注目されているFBDD
(Fragment Based Drug Design) 法に適用すべく研究
開発(LAFIRE_FBDD)を進めた。FBDD法では、非
常に多くのX線結晶構造解析を行う必要があり、迅
速構造解析が必須である。それを実現するために
LAFIRE_FBDDでは、下図のようなリガンドの部品化・
再構築法によるリガンドの位置検出・フィッティング
アルゴリズムを開発した。また、迅速構造解析のた
めに、 Local Monte Carlo,Buchet Sort,Branch Pruning
などのアルゴリズムを利用し、さらに、数台のコン
ピュータを用いたoff-line並列処理を導入して180個の
阻害剤複合体の構造解析を7時間で完成させること
ができた。
LAFIRE_FBDDによるLigand位置検出とフィッティングの流れ
NMR構造生物学研究室
我々の研究室は国家プロジェクト「タンパク3000」
における中核機関として、NMR構造生物学に関する
様々な基盤技術開発を行ってきた。平成21年度には以
下に示す技術開発を行った。
(1)NMR構造解析プラットホームとしてのOliviaの
開発を行った。種々のスペクトル情報を統合し、
低分子量タンパク質ならば、シグナル帰属のプ
ロセスをほぼ自動化することができた。これに
より、NMRに習熟していない研究者も構造解析
を行うことができる。
(2)膜系の構造解析ツールとしてnanodiscを開発し
た。膜タンパク質の構造、運動性、膜との相互
作用を溶液NMRを用いて解析することが可能と
なった。
(3)常磁性ランタノイドプローブ法は長距離情報を
有している点で従来のNMR法と補完的な方法で
ある。我々は常磁性ランタノイドイオンの磁化
率テンソルを決定することにより、タンパク質
およびタンパク質複合体の構造決定を迅速にで
きることを示した。今後、この方法を薬剤探索
に応用していく。
常磁性ランタニドプローブ法により決定したp62 PB1ドメインの二量体相互の配向
上左は重ね合わせ、右はリボン図、下図はOpen book styleで示した二量体の結合面
酸性面と塩基性面を使って二量体を形成している。
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