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湯川秀樹は1972年に『生命は積木細工ですね。量子力学のような難しいこと,直感をこえることは何もありませんね。そのうち、脳もわかってしまいますね』と述べていますが、皆さんはどう思いますか?これまで、タンパク質の全基本構造の1/3(約3000種)以上のタンパク質の構造及びその機能を解析する「蛋白質3000プロジェクト」やヒトのゲノムの全塩基配列を解析する「ヒトゲノムプロジェクト」など生命系を構成する分子情報を網羅探索する学術研究が推進されてきました。これらの流れは生命を構成する部品(パーツ)を徹底的に調べて、生命を理解する試みだと思います。しかし、生命システムの全体像を解き明かすためには新しい角度から生命現象を見つめ直す必要があるのではないでしょうか? 現在、生命システムを理解するためのアプローチには、大別して、背後に存在する数理モデルを提唱するトップダウン的構成論的手法と微視的な立場からマクロな現象の再現を試みるボトムアップ的還元論的手法が存在します。前者は研究者のイメージが先行し大胆な仮定や粗視化のために自然から乖離したモデルに陥る可能性が存在する一方で、後者は個々の微視的事象を枚挙するだけでシステム全体を捉えることは困難です。歴史を紐解くと、自然科学研究において革命的な発展をもたらすものは、多くの場合、新しい実験技術とその新しい実験事実に基づいた理論・概念の転回です。近年、1分子計測技術等の飛躍的な進展により、「観測」の在り方が大きな変貌を遂げ、サブミリ秒程度の時間分解能で、1分子レベルの大規模構造変形や細胞の分化の計時変化を直接観測することが可能になってきました。我々は、1分子観察時系列情報を見つめながら“トップダウン”と“ボトムアップ”の両アプローチを橋渡しする新しい概念や方法論を確立し、できるだけ自然現象に照らし合わせながら生命システムの階層性の論理を構成し、生命の中に積木細工をこえる新しい概念を創出したいと日々夢見ながら研究しています。 |