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有性生殖を行う生物は様々な性決定様式をもちます。遺伝的に性が決まる生物では、性の決定を担う遺伝子が存在し、その性決定遺伝子が連鎖する染色体を性染色体とよびます。性染色体をもつ生物の中には、進化過程において性染色体に分化が生じ、形態的にも機能的にも雌雄間で違いが生じているものがいます。この性染色体の分化過程は、生物種によって様々です。私たちは、脊椎動物の性決定、性分化、性染色体の機能に焦点をあて、それらの進化過程を明らかにすることを試みています。
1.XO型アマミトゲネズミの分子細胞遺伝学的研究
私たちヒトを含め、哺乳類の性染色体構成はメス (女性) がXX、オス (男性) がXYであり、Y染色体をもつか否かで性が決定されます。遺伝子レベルでみると、Y染色体に連鎖するSry遺伝子をもてばオスに、もたなければメスになります。これは哺乳類共通の性決定システムです。さらに、Y染色体にはオス特異的なはたらき (精子形成など) をもつ遺伝子が存在し、オスとして生きていくために重要な役割をもっています。しかし、私たちが研究対象としているアマミトゲネズミは、哺乳類としては極めて異例な存在です。トゲネズミはY染色体をもたず、雌雄ともにXO型の性染色体構成をしており、性による染色体の差は一見みられません。しかもSry遺伝子をもちません。私たちはこの奇妙な性染色体と性決定システムをもつトゲネズミを解析対象として研究をすすめています。
2.鳥類の性決定・性分化に関与する遺伝子群の網羅的研究
鳥類の性染色体は哺乳類と異なり、メスへテロ型 (オス:ZZ、メス:ZW) です。鳥類のZ染色体は哺乳類のX染色体と相同性がなく、両者間で性染色体の起源は異なると考えられています。また鳥類独自の性決定遺伝子が存在すると考えられていますが、性決定様式、性決定遺伝子など未解明な部分が多く残されています。そこで、私たちは最新のトランスクリプトーム技術を用いて、様々な発生段階のニワトリ胚性腺に発現している転写産物を雌雄間で網羅的に比較し、鳥類の性決定、性分化にはたらく新規遺伝子群を探索することを試みています。 |