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バクテリアの走化性センサーは、細胞外環境の誘引および忌避物質の濃度を感知し、細胞の動きを変化させるのに役立てられている。このセンサーは高感度で、かつ、非常に広いダイナミックレンジを持つ。この走化性センサーシステムの中核を担う走化性レセプタは、膜を隔てて、それぞれペリプラズム側と細胞質側に大きく突出するセンサー部とシグナリング部で構成される。センサー部に刺激物質が結合すると、そのシグナルが細胞内部へ伝達されるが、その詳細な機構の多くはまだ明らかにされていない。
他方で、一部の古細菌の膜に存在する走光性センサーは、光刺激を受容する特殊なサブユニットを除いて、走化性センサーと非常によく似た機構を持つことが知られている。光刺激は、化学物質による刺激に比べオン/オフが容易なため、シグナル伝達時の分子内の動きを解析する際に用いられる物理化学的手法とも相性がよい。ただ、この古細菌の膜にある光センサータンパク質はごく微量なうえ不安定で、扱いが難しいという研究材料としての難点を持つ。そこで、大腸菌の走化性センサータンパク質に、この古細菌の光センサーの一部を組み込んだキメラタンパク質を開発することで、扱いやすい大腸菌に走光性を持たせ、それを用いたシグナル伝達機構の解析ができないか模索を続けている。 |