|
骨形成に及ぼす物理刺激の効果
骨組織の巨視的な形状は、材料・構造力学上理に適っていることが古くから知られている。これは、生物が日常的に受ける外力との相互作用の結果、骨組織が形成されていることを示唆し、更に、力学刺激が正常な骨代謝に必須であることも意味している。実際、臨床的には骨折の治癒促進のため力学刺激を加えることが日常的に行われている。しかしながら、骨組織が「なぜ」「どのようにして」力学刺激に応答しているのかに関する明確な答えは、未だ得られていない。
力学刺激に従って骨形成が進む過程は、骨中の細胞により司られている。その意味で骨の力学適応の素過程は、骨中の細胞による力学刺激への応答と考えられる。我々は骨組織に特徴的な細胞の一つである骨芽細胞を用いて、細胞の力学刺激センサー機能の実体とそのメカニズムの解明を目指している。骨芽細胞の力学刺激に対する応答を調べることにより、そのセンサーの機械特性を明らかにすることが当面の課題である。
アミロイド線維の形成ダイナミックス
アミロイド線維は変性したタンパク質が形成する凝集物の一種であり、アルツハイマー病をはじめとする様々な病気と関連していることが知られている。しかしながら、病気とは関係のないタンパク質でも、適当な反応条件下でアミロイド線維を形成することが見いだされており、アミロイド線維はタンパク質の持つ普遍的安定構造である可能性が高い。病気との関連から、アミロイド線維の形成について膨大な研究があるにもかかわらず、「なぜ」「いかにして」アミロイド線維ができるのかについては明確な答えが見つかっていない。これらの疑問の答えを探すべく、我々は、アミロイド線維形成時インキュベーションの時間および温度依存性を調べ、タンパク質モノマーが自己凝集を起こす条件について検討している。種々の条件で調整したアミロイド線維溶液の流動複屈折を測定することでアミロイド線維の動力学的性質を明らかにし、新しい線維形成モデルの構築を目標に据えている。
高分子グロビュラー固体の創製
良溶媒に溶解させ、溶媒を蒸発させるキャスト法で作成された高分子フィルムでは、溶媒蒸発の過程で、臨界接触濃度以上になると高分子鎖が相互侵入し、鎖の絡み合いを形成する。このようにして作成されたフィルムでは、分子間に働くファン・デル・ワールス力と、絡み合いによって固体としての形を保ち、一定の物性を呈するようになる。高分子の緩和スペクトルにおける箱型領域や、最長緩和時間、高分子のゴム状態などは高分子鎖の絡み合いに関係するものである。もし、こうした絡み合いをコントロールできるなら、高分子フィルム・高分子固体の物性を広い範囲で制御できるのではないかと思われる。我々の発想は、絡み合いコントロールの出発点として、グロビュール固体を作ってみるというものである。良溶媒中の高分子鎖は、ランダムコイルと呼ばれる広がった糸まり状で存在するが、溶媒を貧溶媒化させると個々の高分子鎖はグロビュールと呼ばれる、縮んだ硬い糸まりとなり、更には溶質の析出がおこる。我々は、DNA-カチオン性界面活性剤複合分子をつくり、安定なグロビュールを作成した。これらをキャストして作成したフィルムは、種々の散乱法やプローブ顕微鏡によって、グロビュールの凝集体であることが確認されている。現在、絡み合い度の制御を行い、絡み合い数を変化させたときの物性変化を追跡している。 |