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大型の完全変態昆虫であるカイコを用い、脱皮や変態など昆虫の発生過程における遺伝子機能を、遺伝子発現制御の分子機構を通して解明することを目指しており、この制御に関わる遺伝子カスケードや、転写制御因子が作る複合体について解析を進めている。
絹糸遺伝子の転写制御機構
カイコは幼虫期に4回脱皮し、5齢幼虫で繭を作り、幼虫から蛹、蛹から成虫へと変態する完全変態昆虫で、蝶と同様に鱗翅目に分類される。繭糸の成分である絹糸タンパク質は幼虫腹部の絹糸腺で合成されるが、これらをコードする遺伝子のうちフィブロイン遺伝子は後部領域特異的に、セリシン遺伝子は中部領域特異的に発現する。また、絹糸遺伝子は幼虫期を通して発現しているが、幼虫が脱皮する眠とよばれる時期には発現を停止し、脱皮後に再び発現するという過程を繰り返す。このような絹糸遺伝子の発現制御機構を明らかにするため、この制御に関わる転写制御因子群と、それらが作る複合体の機能、動態を明らかにしようとしている。
脱皮ホルモンによる遺伝子制御カスケードの解明
昆虫の脱皮過程では多数の遺伝子の発現が変化し、脱皮ホルモンと幼若ホルモンによって制御されていると考えられている。脱皮ホルモンが作用することによって転写因子をコードする遺伝子が活性化され、いくつかの遺伝子の発現が抑制されるとともに、脱皮に必要な遺伝子が活性化されるという遺伝子制御のカスケードが作動する。この時、幼若ホルモンがあると幼虫脱皮が起こり、再び幼虫の遺伝子が活性化されるが、幼若ホルモンがないと蛹や成虫への変態が起こると考えられているが、詳細な分子機構は明らかになっていない。絹糸遺伝子の脱皮サイクル依存的な発現制御に関わる因子の構造・機能を明らかにするとともに、脱皮ホルモンが作用した時に発現する初期遺伝子とその下流遺伝子を解析し、昆虫の幼虫脱皮や変態における遺伝子制御カスケードを明らかにしようとしている。 |