北海道大学 大学院 生命科学院
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匂いのかたちを捉える神経を発見~ゴキブリは見るように匂いを嗅ぐ~

動物分類学の草分け、本学の内田 享(うちだ とおる)教授(ウチダザリガニの命名で有名)は「膜翅類(ミツバチなど)の嗅覚は脊椎動物の固定した鼻の場合とはちがって、触角で匂いの位置をさぐることができるので、匂いの形を知ることができる可能性がある」と述べました(動物分類系統学7 (下A)、中山書店、1970年)。西野助教らの研究グループは触角で匂い空間を探ることのできるゴキブリを用いてこの仮説が正しいことを証明しました。

ワモンゴキブリのオスは視覚を利用できない暗闇の中でも触角を動かしながら性フェロモンを出すメスのもとに正確にたどり着くことが知られています。西野助教らはこの長い触角の基部〜先端の特定領域(受容野:receptive field)のフェロモン刺激に応じる介在ニューロンの同定に成功しました。隣接する受容野間には大きな重複があり、8本のニューロンで触角全域をカバーします。このことは複数ニューロンの活動の組み合わせによって匂いのかたちを認識できることを示しています。空気中の匂いには明瞭な濃度勾配はなく、匂い分子の塊(フィラメント)が不連続に分布していることが知られているので、匂いの境界や形状についての情報を匂い源探索に利用することは理にかなっています。

複数の受容野を感覚野上にタイルのように敷きつめる様式は視覚情報処理では良く知られていますが、嗅覚系では初めての発見です。本研究は動物の匂いナビゲーションの神経機構の理解に向けて新たなとびらを開くものです。

(研究論文)
研究論文名:Spatial Receptive Fields for Odor Localization(匂い源定位に利用される空間受容野)
著者名 西野浩史1,岩﨑正純1, Marco Paoli 2, 上村逸郎3, 頼経篤史1, 水波 誠4(1北海道大学電子科学研究所,2コンスタンツ大学神経科学部,3株式会社マックスネット,4北海道大学大学院理学研究院)
雑誌名 Current Biology(生物学の専門誌)
公表日 日本時間2018年2月9日(金)午前2時(オンライン公開)

2018/2/9 プレスリリース ダウンロード

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