北海道大学 大学院 生命科学院
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記事詳細

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不凍タンパク質の分子表面に氷と良く似た水分子ネットワークを発見

背景:

氷は0℃以下で際限無く大きくなる性質をもっています。この現象が凍結保存中の食品,医療品,細胞,組織などの内部で起こるために,それらの凍結品質や生命力が損なわれてしまうことが問題になっています。不凍タンパク質(Antifreeze Protein、略称AFP)は,0℃よりも少しだけ低い温度で氷の表面に強く結合し,その成長や融合を強力に阻止する機能性物質です。もしもAFPをお手本にした人工の凍結制御物質を作ることが出来れば,野菜、果実、加工食品、パン類、麺類、清涼飲料、医療品、試薬、化粧品、顔料、細胞、組織、臓器等の中に氷の塊を作らせない新しい省エネ技術ができると期待されています。これまで研究室では,北海道に生息するゲンゲ科魚類から発見したAFPをモデル物質として,その氷結晶結合メカニズムを調べてきました。

 

研究手法:

AFPの遺伝子配列と一次配列(アミノ酸残基数65,分子量7,000)を解析し,その中の特定の部分を別のアミノ酸残基に置換した複数の異性体を遺伝子組換え技術により作製しました。凍結ステージ付き顕微鏡システム、円偏光二色性、超遠心、NMR、X線法を用いて,それらの3次元分子構造と氷結晶結合機能を解析しました。更に,蛍光物質を付加した各AFP異性体の水溶液の中に直径約3 cmのボール状の単結晶氷を浸すことで、それらのAFPが単結晶氷のどの部分に結合するかを詳しく解析しました。X線回折実験は,高エネルギー加速器研究機構フォトン・ファクトリー(Photon Factory, PF)で行いました。

 

研究結果:

作製したAFP異性体の中の1つが非常に強く氷に結合することが分かりました。この異性体は20番目のアミノ酸残基をイソロイシンに置換したもので(図中の黄色に塗った部分),このアミノ酸がつくる局所構造の周囲に氷と良く似た構造をもつ水分子のネットワーク(赤い球と破線で示したもの)が広がっていることがX線構造から分かりました。通常,氷の結晶は六角形模様をつくる様に配置しており,その中にある水分子は全て正四面体型構造をとっています。氷結晶様の水分子ネットワークも完全な正四面型構造の水分子を1組だけ含んでいましたが(図中の1〜5),ネットワークを構成する水分子の基本構造は六角形ではなく五角形でした。このような五角形型の水分子は氷の成長界面に多く存在することが示唆されています。このAFP異性体が結合する氷結晶面に関する情報や分子表面の疎水性度の解析から,今回観察された氷結晶様の水分子ネットワークはターゲットとなる氷の成長界面にある水分子群と瞬時に混ざり合う為にできていると推察されました。AFPと氷結晶が瞬時に複合体を形成することが,氷の成長を強く抑える最重要ポイントであると結論付けられました。次の研究課題はこの様な水分子ネットワークを宿した物質をどうしたら作ることができるかです。

 

研究者氏名: マハタウッディン・シェイク深見大地新井達也,西宮佳志、清水瑠美,柴崎千枝,近藤英昌,安達基泰,津田 栄

 

生命科学専攻(生命融合科学コース) 連携分野 分子適応科学研究室(産総研)

 

論文題目, 掲載誌:

Polypentagonal ice-like water networks emerge solely in an activity-improved variant of ice-binding protein. (2018) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 115 (21): 5456-5461. doi: 10.1073/pnas.1800635115.

 

連携分野のプレスリリースURL:

http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2018/pr20180508_2/pr20180508_2.html


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