北海道大学 大学院 生命科学院
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コオロギはヒトと似た構造の耳をもつ


北海道大学電子科学研究所の西野浩史助教、堂前愛研究員, 同大学院情報科学研究の岡嶋孝治教授,森林総合研究所の高梨琢磨主任研究員の研究グループは,コオロギの聴覚器とこれをとりまく組織の三次元構造を高精細で明らかにするとともに,ヒトの耳小骨と相同の機能をもつと思われる構造(上皮コア)を初めて発見しました。
ヒトと同じ陸上に生きる昆虫の中には,同種間コミュニケーションのために聴覚を発達させたものがいます。その代表格であるコオロギの耳は前肢の脛節にあり、鼓膜を持つ耳としては動物界最小サイズ(200μm)にもかかわらず,ヒトよりも広い周波数の音を聞き分けられる高感度・広帯域の聴覚器です。
本研究ではフタホシコオロギの鼓膜から聴感覚細胞にいたる経路を精査しました。その結果、気管の上に整然と配置された50個の感覚細胞群の周囲はリンパ液で満たされた閉じた袋のようになっていること、袋の一端にはキチン質でできた固い貝殻のような上皮コアが付着しており、鼓膜の変位によって生じる気管のずれをリンパ液の1方向の流れに変換しうる構造をもつことを発見しました。感覚細胞の樹状突起(機械的ひずみを検出する部分)は刺激されやすいよう流れに対して直交していました。低周波の音ほど液体の遠くにまで振動エネルギーが伝わるため、上皮コア近くの感覚細胞は高周波の音、遠くの細胞は低周波の音を処理します。音声コミュニケーションを行わない幼虫には上皮コアは存在しません。成虫脱皮後,上皮細胞は気管への定着とキチン質の分泌を繰り返しながら自己組織化的に肥大し,6日で完成します。
以上,ヒトと昆虫の進化的起源は大きく異なるにもかかわらず,いずれも1枚の鼓膜に入射した音をリンパ液の流れに置き換える構造をもつ点で原理的によく似ていることがわかりました。動物種を問わず,音の周波数の違いを異なる感覚細胞が識別できるようにするには振動を液体の流れに変換する過程が必要なのかもしれません。今後上皮コアの具体的な機能について調べることで,生物模倣分野におけるマイクロセンサーの開発に寄与できる可能性があります。
本研究成果は, 2019 年 3 月 4 日(月)に Cell and Tissue Research 誌にて公開されました。

(研究論文)

論文名 Cricket tympanal organ revisited: morphology, development, and possible functions of the adult-specific chitin core beneath the anterior tympanal membrane.(コオロギの鼓膜器官:上皮コアの形態、発生、想定される機能)
著者名 西野浩史1,堂前 愛1, 高梨琢磨2, 岡嶋孝治3(1北海道大学電子科学研究所,2森林総合研究所,3北海道大学大学院情報科学研究科)
雑誌名 Cell and Tissue Research(細胞生物学の専門誌)
DOI 10.1007/s00441-019-03000-2
公表日 2019年3月4日(月)(オンライン公開)

2019/3/6 プレスリリース ダウンロード

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