北海道大学 大学院 生命科学院
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小鳥の種によって歌が異なる原因に関わる遺伝子群を同定

北海道大学大学院理学研究院の和多和宏准教授らの研究グループは,小鳥で近縁種であるキンカチョウとカノコスズメを用いて,遺伝子の読み出し方(遺伝子発現制御)がどのように脳内で変わったことで種特異的な歌パターンが生まれたのかを明らかにしました。

小鳥の歌は,ヒトの言語と同じように親など他個体の発声パターンをまねることで後天的に獲得されます。小鳥は,種によってさえずり方が違うように,生まれながらにもつ遺伝情報の影響も受けて,種特異的な歌を歌うようになります。しかし,種分化の過程でどのような遺伝情報の変異が蓄積したことによって種間で異なった歌を歌うようになったのかはわかっていません。これは,小鳥の歌に限らず「動物の行動がどのように進化してきたのか?」という現在の生物学研究の大きな問題の 一つです。

この問題に対して,鳴禽類スズメ亜目に属するキンカチョウとカノコスズメに着目して研究を 行いました。この2 種は近縁種にもかかわらず,さえずり歌が大きく異なり,また近縁種ゆえに雑種ハイブリッド個体を作り出せます(図1)。この近縁種2 種間での「遺伝子の読み出されている量」とその子孫のF1 ハイブリッド個体での「遺伝子座の読み出し比」の2 つの情報から,ゲノム上の 各遺伝子の読み出しに関わる変異の有無を判定できました。その結果,さえずり発声に重要な脳部位(歌神経核)で約800 個の遺伝子でその読み出しに関わる変異が起こることが分かりました。これは脳内で読み出されている遺伝子の約10%が影響を受けていることを意味します。特に,遺伝子の読み出し調節に関わる因子の性質を変えるtrans(トランス)変異によって,神経機能に関わる遺伝子群が多くの影響を受けていました。

この2種間で異なる読み出し調節に関わる因子として,脳由来神経栄養因子として知られるBDNF を同定しました。実際にBDNF 作動薬をキンカチョウの脳内に入れると,トランス変異を受けている遺伝子群の読み出し方が変わりました。また,BDNF 作動薬を2週間投与されたキンカチョウは,本来のキンカチョウの特長をもつさえずり歌パターンが崩れて異常な歌を歌うようになることを実験的に検証しました。

なお,本研究成果は2019 年11 月14 日(木)公開のPLoS Biology に掲載されました。

研究論文

論文名 Transcriptional regulatory divergence underpinning species-specific learned vocalization in songbirds (鳴禽類ソングバードにおける種特異的な歌に関わる遺伝子発現制御の相違)
著者名 WANG Hongdi1, 澤井 梓 1, 田路矩之3, 杉岡凜太朗 1, 柴田ゆき野 1, 鈴木惟加 1,早瀬 晋 1, JI Yu1, 赤間 悟 2, 瀬々 潤 2, 和多和宏 3 (1 北海道大学大学院生命科学院, 2 産業技術総合研究所創薬基盤研究部門, 3 北海道大学大学院理学研究院)
雑誌名 PLoS Biology(生物学全般に関する学術誌)
DO I 10.1371/journal.pbio.3000476
公表日 2019年11月14日(木)(オンライン公開)

2019/11/14 プレスリリース ダウンロード

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