北海道大学 大学院 生命科学院
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膜輸送タンパク質による物質取込み・放出過程の直接観測

菊川峰志講師(大学院先端生命科学研究院)らの研究グループは、細胞膜を隔てて物質を運ぶタンパク質(膜輸送タンパク質)が、物質を取込み、次いで、放出する過程を直接観測することに成功しました。

細胞膜上には、必要な物質を細胞内へ取込み、不要な物質は細胞外へ排出する「膜輸送タンパク質」が存在しています。「物質を運ぶ」という機能自体は単純ですが、これを実現することは容易ではありません。下図は、あるエネルギー(ATPの加水分解エネルギーや光エネルギー)を利用して物質を一方向へ輸送するタンパク質(能動輸送タンパク質)を表しています。このタンパク質は、エネルギー入力を切っ掛けとして構造変化を起こし、まず、タンパク質の内部を一方の溶液に露出させます。この状態で、物質を内部に結合し、次の構造変化によって、物質をタンパク質内で移動させます。さらに次の構造変化によって、細胞内部をもう一方の溶液へ露出させて、物質を放出します。これらの過程において、細胞内部は、片側の溶液にだけ露出される必要があります。そうでなければ、物質のリークが起こってしまうためです。このように、膜輸送タンパク質は、構造の異なる複数の中間状態(中間体)を経由しながら物質を輸送しているはずですが、分子機構が明らかになったタンパク質はごく僅かです。多くの輸送タンパク質では、幾つの中間体を経由するのかさえ明らかになっていません。本研究グループは、微生物ロドプシンという膜タンパク質を試料として、このタンパク質が、「どの中間体の時に物質を取込み、どの中間体の時に物質を放出するのか」を直接観測した結果を報告しました。

試料としたタンパク質は、光エネルギーを使って、Na+イオンを細胞外へ排出するタンパク質です。パルスレーザーを用いると、多くのタンパク質を一斉に活性化できるので、その後は、全てのタンパク質が、同じタイミングで、同じ中間体を経由しながら、輸送反応を行なう「位相が揃った状態」を作ることができます。また、このタンパク質は、光エネルギーを獲得するための色素を持っており、中間体の移り変わりに応じて色が変化するという便利な性質も持っています。本研究グループは、輸送反応中に起こる微小なNa+濃度変化を検出できる特殊な膜(Na+選択膜)を作製しました。この膜を用いて、Na+濃度変化を電位変化として検出し、中間体の移り変わりはタンパク質の「色の変化」として検出しました。両者を比較することで、Na+の取込みと放出が起こる中間体の同定に成功しました。これらの情報は、膜輸送の分子機構をさらに調べていくための重要な手掛かりになります。今後、このタンパク質の研究を通して、一般の膜輸送タンパク質にも共通するメカニズムが明らかになっていくことが期待されます。

 

本研究成果は、2020年8月26日公開のJournal of the American Chemical Society誌に掲載されました。また、同誌の”Spotlights”には、論文の紹介文が掲載されています(https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.0c09804)。

論文情報
論文名:Direct Detection of the Substrate Uptake and Release Reactions of the Light-Driven Sodium-Pump Rhodopsin
著者名:村部圭祐1、塚本卓2,3、相沢智康2,3、出村誠2,3、菊川峰志2,3
(1北海道大学大学院生命科学院; 2北海道大学大学院先端生命科学研究院; 3北海道大学GI-CoRE)
雑誌名:Journal of the American Chemical Society
DOI:10.1021/jacs.0c07264
公表日:2020年8月26日(オンライン公開)


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