北海道大学 大学院 生命科学院
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光嗜好性を利用した昆虫の行動制御 ~高速道路への飛来虫低減に期待~

 電子科学研究所の西野浩史助教、堂前 愛研究員、東日本高速道路北海道支社技術企画課の小松正宏氏,ネクスコエンジニアリング北海道の栗原啓伍氏らの研究グループは産学連携研究の一環として,大規模な野外実験を実施し,害虫を選択的に誘引するライトトラップの開発に向けた基礎的知見を得ました。
 広い森林面積を持つ北海道では短い夏の間に多くの昆虫が発生します。マイマイガは多くの植物を食害する世界的森林害虫ですが,お盆の時期に高速道路沿線の光源に多数飛来し,休憩施設に定着したり,電子料金収受システムの目詰まりを起こしたりすることが問題となってきました。休憩施設には多くの利用者が集まるため,農薬の散布を控える必要があり,「環境にやさしい飛来虫防除法の開発」が望まれていました。
 本研究の狙いは誘引性の高い光波長を備えたライトトラップをバックヤードに設置することで,休憩施設へのガのよりつきを減らすことにあります。様々な仕様,波長の発光ダイオード((LED)トラップを高速道路沿線に設置し,気象条件や光波長の違いとトラップされる昆虫種の関係について調べました。データは夏季に有珠山サービスエリアと夕張インターチェンジ近辺で行われた実験をもとにしています。
 その結果、飛来虫は種特異的な光波長への嗜好性を持っていました(図1)。防除対象であるマイマイガ,クスサンは低波長の光を好みますが,紫外線域よりもむしろ可視光との境界域(380 nm)に誘引される傾向がありました。とくにマイマイガはクスサンよりも長波長よりの光に誘引される傾向がありました。一方,水生昆虫(トビケラ,ヘビトンボ)や羽アリは波長選択性が低く,暖色系の光源にも誘引されました(図1)。また、日没時の気温が20℃を超えたときにマイマイガのメスの群飛が最も起こりやすく,大量のガが捕獲されることがわかりました。

 本成果はガの群飛がおこりそうな気象条件の日に適正な波長を実装したトラップを設置することによって,マイマイガやクスサンの選択的防除が可能となることを示すものです。現在,適正な光波長を実装したLEDトラップを作成中です。昆虫の情報処理のしくみや行動を環境低負荷型の防除に利用するアプローチは今後益々重要になると思われます。

研究論文

論文名 Management of flying insects on expressways through an academic-industrial collaboration: evaluation of the effect of light wavelengths and meteorological factors on insect attraction (高速道路への飛来虫低減を目指した産学連携研究:飛来虫発生と光波長・気象条件との関係)
著者名 松正宏1*, 栗原啓伍2*, 齋藤進1, 堂前愛3, 増谷直輝1,志村佑太1, 梶山俊一郎1, 神田侑奈4, 杉崎幸樹1, 蛯名浩二1, 池田修1, 森脇雄大1, 渥美尚大1, 阿部勝義1, 丸山正1, 渡邉敏史1, 西野浩史3(1東日本高速道路株式会社,北海道支社,技術企画課,2ネクスコエンジニアリング北海道,3北海道大学,電子科学研究所、4北海道教育大学札幌校)*同等の貢献
雑誌名 Zoological Letters(動物学の専門誌)
DOI 10.1186/s40851-020-00163-7
公表日 2020 年 11 月 26 日(木)

図1 昆虫の光波長選択性。クスサンやカブトムシ、クワガタは低波長の光を好むが、マイマイガはより長波長の光にも誘引性を持っていた。コガネムシは青の光に強く誘引された。水生昆虫や羽アリの波長選択性は低く、長波長の光にも誘引された。

2020/12/3 プレスリリース ダウンロード

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