北海道大学 大学院 生命科学院
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神経ペプチドの受容体GPCRの立体構造の解明(薬学研究院 教授 前仲勝実)

神経ペプチドの受容体 GPCR の立体構造の解明

横浜市立大学大学院生命医科学研究科 博士後期課程 2 年の石本 直偉士さん、朴 三用教 授、北海道大学大学院薬学研究院 前仲 勝実教授、東北大学大学院薬学研究科 井上 飛鳥教 授、延世大学 Lee Weontae 教授らの国際研究グループは共同研究により、中枢・末梢神経 系において発現するペプチドホルモンであるガラニンと受容体であるガラニン受容体 (GALR2)、Gq タンパク質三量体の複合体の立体構造をクライオ電子顕微鏡単粒子解析法* 1 により明らかにしました。

この成果は、G タンパク質共役受容体*2 のシグナル伝達についての知見を深めるととも に、GALR2 が関わるとされるアルツハイマー病、不安神経症などの疾患の治療薬の開発に 貢献することが期待されます。本研究成果は、「PLOS Biology」に掲載されました。(日本時間 2022 年 8 月 12 日(金) 午前 3 時)

 

研究成果のポイント

  1.  神経ペプチドであるガラニンと受容体GALR2の複合体の立体構造の解明
  2. GPCR の活性化機構の知見に繋がるとともに、治療薬の開発への貢献が期待される

 

研究背景

年間 100 兆円を超えるとされる世界の医薬品市場で市販されている約半数の薬剤は膜タ ンパク質*3 を標的としていると言われています。特に、市販薬剤の 3 割ほどは G タンパク 質共役型受容体(GPCR)という膜タンパク質が標的となっています。そのため、GPCR の構 造学的知見は新規薬剤の開発において重要な役割を果たすと考えられ、近年さまざまな GPCR の構造が明らかになっています。本研究の対象であるガラニン受容体(Galanin receptor:GALR)は、中枢・末梢神経系に 発現する神経ペプチドであるガラニンを認識する GPCR であり、GALR1-3 の 3 つのサブタ イプがあることが知られています。これらのガラニン受容体はアルツハイマー病、不安神経 症などの疾患に対する新規薬剤の標的タンパク質として注目されています。

 

研究内容

本研究グループは、クライオ電子顕微鏡単粒子解析により、ガラニンとその受容体の1つ である GALR2 と G タンパク質の複合体の立体構造を明らかにすることに成功しました(図1)。GALR2 は GPCR 特有の 7 本の膜貫通型ヘリックスからなっており、細胞外側のポケットに対してペプチドであるガラニンの 16 残基(全長 30 残基)が結合している状態を観測し ました。ガラニンはその一部がαヘリックスを巻きながら GALR2 と結合しており、疎水性 相互作用により安定化していることが明らかとなりました(図 1)。

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図 1.クライオ電子顕微鏡により明らかとなった GALR2 とガラニン、
G タンパク質複合体の全体構造(左、中央)。GALR2 とガラニンペプチド結合様式を表示(右)。

 

明らかとなった立体構造を基に変異体を作製し、東北大学・井上飛鳥教授による Gq タン パク質の活性測定によりガラニンと GALR2 の結合に関わる重要な残基を明らかにしまし た(図 2. 左)。また、すでに非活性型の立体構造が明らかとなっている GPCR の 1 種であ る β2 アドレナリン受容体(β2AR)と構造を比較すると、活性型 GALR2 の 6 番目の膜貫通ヘ リックスは非活性状態と比較して大きくシフトしており、また、GPCR に保存されているい くつかのモチーフについても構造変化が起こっていることを明らかとしました(図2. 右)。 これらの構造変化は他の活性型 GPCR の構造にも見られる特徴の 1 つであり、GALR2 でも 同様の構造変化が起こっていることがわかりました。

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図 2.結合に関わると示唆された 10 種のアミノ酸の変異体を作製し、それぞれの活性測定を行なった (左)。また、GPCR の 1 種であるヒト β2AR の結晶構造(非活性型)と GALR2 の構造(活性型)の重 ね合わせにより保存された各モチーフを比較した結果、活性化に伴い受容体の構造変化を観測した (右)。

 

今後の展開

本研究により明らかとなった GALR2 とガラニンの複合体の立体構造情報は、今後、アル ツハイマーやうつ病をはじめとする神経疾患の新規薬剤の開発や既存薬剤の改良、また、G タンパク質を介したシグナル伝達の機構などの生理学的知見において重要な役割を果たす ことが期待されます。

 

研究費

本研究は、文部科学省・新学術領域研究「高速分子動画法によるタンパク質非平衡状態構造 解析と分子制御への応用」と科研費(基盤 B)の支援を受けて遂行しました。

 

論文情報

タイトル: Structure of the human galanin receptor 2 bound to galanin and Gq reveals the basis of ligand specificity and how binding affects the G-protein interface.
著者: YunseokHeo*,NaitoIshimoto*,Ye-EunJeon,Ji-HyeYun,MioOhki,YukiAnraku,Mina Sasaki, Shunsuke Kita, Hideo Fukuhara, Tatsuya Ikuta, Kouki Kawakami, Asuka Inoue, Katsumi Maenaka, Jeremy R. H. Tame, Weontae Lee, Sam-Yong Park.

(*These authors contributed equally) 掲載雑誌: PLOS BIOLOGY
DOI: doi.org/10.1371/journal.pbio.3001714

 

用語説明

*1 クライオ電子顕微鏡単粒子解析:極低温状態の氷中に包埋したタンパク質試料について クライオ電子顕微鏡を用いて撮影、得られたタンパク質粒子像の画像処理を行い、3次元再 構成することでタンパク質の立体構造を明らかにする手法。

*2 G タンパク質共役受容体(G protein-coupled Receptor : GPCR):ヒトゲノム中に 800 種 類ほど存在していると考えられている 7 回膜貫通型の膜タンパク質であり G タンパク質を 介して細胞外の情報を細胞内へ伝える役割を担う。

*3 膜タンパク質:生体膜上に存在するタンパク質。細胞間、細胞内外の情報伝達、細胞内 環境の調節、エネルギー生産などを担う。


<お問い合わせ先>
【研究内容に関すること】
横浜市立大学大学院生命医科学研究科 教授 朴三用

Tel:045-508-7229 park@yokohama-cu.ac.jp 東北大学大学院薬学研究科 教授 井上飛鳥

Tel:022-795-6861 iaska@tohoku.ac.jp

【報道に関すること】
横浜市立大学 広報課長 上村一太郎 Tel:045-787-2414 koho@yokohama-cu.ac.jp
※8 月 12 日・15 日は一斉休業日となりますので、問い 合わせは研究者まで直接お願いいたします。

北海道大学社会共創部 広報課
Tel:011-706-2610 jp-press@general.hokudai.ac.jp

東北大学大学院薬学研究科 総務係 Tel:022-795-6801 ph-som@grp.tohoku.ac.jp


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