北海道大学 大学院 生命科学院
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動物の運動状態による逃避行動への影響を解明

動物の運動状態による逃避行動への影響を解明

行動制御科学分野の小川宏人先生らの研究グループは、コオロギの逃避行動が脅威刺激を受けたときの運動状態によって変化することを明らかにしました。この論文は本コースの修了生である木内秀和くん(2022年3月生命科学院修了)の研究成果であり、北大のプレスリリースでも掲載されています。以下、小川先生による解説です。

北海道大学大学院理学研究院の小川宏人教授らの研究グループは、歩行中のコオロギの逃避行動を詳細に観察して、刺激に対してそのまま逃げるのではなく、一時停止してから逃避することを明らかにしました。
動物はたとえ同じ刺激を受け取っても、その時の外部環境だけではなく、動機の強さや生体リズムなどの内部状態によっても起こす行動を変化させます。中でも運動中かどうかは、動物の行動に大きく影響します。例えばヒトの場合、ランニング中は認知課題の成績が悪くなるなどの影響があることが報告されています。しかし自由に運動している動物に全く同じ刺激を繰り返し与えることは難しいため、運動状態の行動への影響を詳細に調べることはできませんでした。
研究グループは、弘前大学理工学部(投稿時)の岩谷靖先生と共同開発したサーボ型球形トレッドミル装置を用いて、自由に歩行しているコオロギに方向や強さを精密に制御した短い気流刺激を与え、それによって生じる逃避行動を調べました。実験の結果、コオロギは自発的に歩行している最中に刺激を受けると、ほとんどの場合すぐに一時停止し、その後、逃避行動を起こしました。しかも、静止中には何も反応しない様なごく弱い気流刺激に対しても停止し、さらに静止中より高い確率で逃避反応を示すことが分かりました。一時停止する分、逃避反応を開始するまでに時間がかかりますが、刺激に対する感受性を高めることでその遅れを保証している可能性があります。また、運動中の逃避反応における逃げる距離や速度は静止時と変わらないものの、逃げる方向が静止時に比べて不正確になっていました。
以上の結果から、コオロギの逃避行動は運動状態によって変化することがわかりました。運動中に見られる一時停止反応は、他の動物で報告されている「凍り付き反応(Freezing response)」と同じ意味を持つのかもしれません。

発表論文 Motor state changes escape behavior of crickets(運動状態によるコオロギ気流誘導性行動の変化)
著者 木内和秀1、設樂久志2,3、岩谷 靖4、小川宏人21北海道大学大学院生命科学院、2北海道大学大学院理学研究院、3三重大学大学院医学研究科、4弘前大学大学院理工学研究科)
雑誌名 iScience(自然科学全般のオープンアクセスジャーナル)
公表日 2023年7月11日(火)(オンライン公開)
DOI: 10.1016/j.isci.2023.107345
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2589004223014220

北大のプレスリリースはこちら。
https://www.hokudai.ac.jp/news/2023/07/post-1262.html


図1 成運動状態によるコオロギの気流逃避行動の違い。静止しているコオロギを短い気流で刺激するとすぐに刺激の反対方向へ逃げるが(右)、歩行中に刺激すると必ず一時停止してから逃げる(左)。


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