北海道大学 大学院 生命科学院
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デングウイルスや新型コロナウイルス等の増殖を抑える広域阻害薬を発見~デング熱等の新興・再興ウイルス感染症治療薬開発に期待~(薬学研究院 教授 前仲勝実)

ポイント

●北大創薬科学研究教育センターの核酸化合物ライブラリーを用いたスクリーニングを実施。
●デングウイルスや新型コロナウイルスを含む複数のウイルス種に対して強力な抗ウイルス活性を示すs2Uを同定。
●デング熱等の治療薬のない新興・再興ウイルス感染症に対する広域的抗ウイルス薬の開発に期待。

概要

北海道大学大学院薬学研究院の前仲勝実教授、同大学の松田 彰名誉教授、同大学大学院生命科学院博士後期課程(当時)の上村健太朗氏(現:大阪大学感染症総合教育研究拠点 特任助教)、同大学人獣共通感染症国際共同研究所の澤 洋文教授(当時、現:同大学創成研究機構ワクチン研究開発拠点 教授)と佐藤彰彦客員教授らの研究グループは、2-Thiouridine(s2U)がデングウイルス(DENV)や新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)等に対して強力な抗ウイルス活性を有することを発見しました。

本研究で特に着目したDENVは、これまで多くのワクチン及び治療薬の開発研究が行われてきましたが、未だ有効な治療法は確立されていません。そこで研究グループは、新たな治療薬候補の探索を目的として、同大学大学院薬学研究院創薬科学研究教育センターの化合物ライブラリーを用いたスクリーニングを実施し、抗ウイルス活性を有する核酸代謝拮抗薬の同定を試みました。その結果、細胞に対して強い毒性を示すことなく、DENVやSARS-CoV-2を含む複数のウイルス種に対して強力な抗ウイルス活性を有するs2Uを見出しました。また、本化合物は市中に流行しているオミクロン株に対しても抗ウイルス活性を示すことを確認しました。

続いて、本化合物の作用メカニズムを解析した結果、本化合物はウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)により媒介されるウイルスRNAの合成伸長を阻害することが示唆されました。加えて、実験動物を用いたウイルス感染実験の結果から、本化合物の投与によりウイルス感染マウスにおける症状改善(致死抑制効果)が認められました。

本研究において、ヒトに重篤な疾患を引き起こすDENV等の蚊媒介性ウイルスや、SARS-CoV-2をはじめとするコロナウイルス等、幅広いウイルス種に対して本化合物が強力な抗ウイルス活性を有することを見出しました。DENV等の新興・再興ウイルス感染症に対する有効かつ安全な治療薬は存在しないため、本研究成果によって、新たな治療薬の開発が進むことが期待されます。

なお、本研究成果は、2023年10月13日(金)公開のProceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)誌にオンライン掲載されました。

論文名:2-thiouridine is a broad-spectrum antiviral nucleoside analogue against positive-strand RNA viruses(2-チオウリジンはプラス鎖RNAウイルスに対して広域的な抗ウイルス活性を示す核酸アナログである)
URL:https://doi.org/10.1073/pnas.2304139120

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s2Uは様々なプラス鎖RNAウイルスの増殖を抑制する。


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