北海道大学 大学院 生命科学院
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光を使った凝集体機能障害とその後の細胞運命解析に成功(先端生命科学研究院・北村 朗 講師)

~遺伝子破壊技術では達成できない細胞内非膜オルガネラの機能解明に期待~

ポイント
・光を用いて細胞内凝集体であるストレス顆粒に機能障害を引き起こさせることに成功。
・ストレス顆粒の機能障害により細胞死が起こることを実証。
・様々な細胞内非膜オルガネラの生理的役割解明と疾患原因凝集体の破壊療法に期待。

 北海道大学大学院先端生命科学研究院の北村 朗講師らの研究グループは、単量体赤色蛍光タンパク質(以下 SuperNova-Red*1 )を細胞内のストレス顆粒*2へ局在化させた後、光を照射することで、時空間を制御しつつ、ストレス顆粒の機能障害を引き起こすことが可能な光遺伝学法*3 の開発に成功しました。光遺伝学とは、光でタンパク質の機能や活性を制御する技術の総称です。代表的な光遺伝学の方法では光で制御されるイオンチャネルやイオンポンプなどの活性を制御する方法が知られて いますが、本成果では蛍光タンパク質に光を照射することにより、タグ付けしたタンパク質の機能を不活性化することができる発色団補助光不活化法(CALI 法)*4をストレス顆粒に適用し、その後細胞に起こる運命を解明したものです。
 細胞内には様々な凝集体の存在が知られていますが、これら区画の特徴的な機能を調べる方法はこれまで確立されていませんでした。特に、遺伝子工学の手法である遺伝子ノックアウトやノックダウンといった方法を用いると、細胞内の対象タンパク質はすべて合成されなくなることから、凝集体そのものも形成されなくなり、その機能を調べることが原理上不可能でした。
 そのため、時空間を制御しつつ凝集体の機能障害を引き起こすことができる新しい手法が必要であり、本研究はその実証を行ったものです。本研究により開発した光遺伝学実験法は、細胞内の様々な機能性構造の解析に応用させることにより、非膜オルガネラ機能の全貌解明や疾患の原因となる凝集体破壊療法のためのツールとなることが期待されます。
 なお、本研究成果は、2024 年 5 月 3 日(金)公開の ACS Omega 誌にオンライン掲載されました。

細胞内に形成されたストレス顆粒と、それに対する光遺伝学的破壊法(CALI 法)の適応。

詳細は以下をご覧ください。

北大プレスリリース:光を使った凝集体機能障害とその後の細胞運命解析に成功~遺伝子破壊技術では達成できない細胞内非膜オルガネラの機能解明に期待~

論文情報:
論文名: Stress granule dysfunction via chromophore-associated light inactivation(発色団補助光
不活化法によるストレス顆粒の機能障害)
著者名: 鯉住拓未 1、藤本 愛 1、川口遥香 1、黒崎 紬 1、北村 朗 21北海道大学大学院生命科学院、2北海道大学大学院先端生命科学研究院)
雑誌名: ACS Omega(米国化学会発行の学術誌)
DOI: 10.1021/acsomega.4c01469
公表日 :2024 年 5 月 3 日(金)(オンライン公開)

【用語解説】
*1 SuperNova-Red … 単量体型赤色蛍光タンパク質の一つ。世界で初めて開発された遺伝子コード型の光増感剤を単量体型に改変し、標的タンパク質に対しタグ付けを行いやすくしたもの。宇宙における超新星爆発から名付けられた。
*2 ストレス顆粒 … 高塩濃度、高酸化、高浸透圧などのストレス環境下に置かれた細胞内で、細胞質に形成されるタンパク質と核酸(RNA)から構成される凝集体の一つ。ストレスから解放されると消失する。
*3 光遺伝学法 … 光を使ってタンパク質の機能や活性を制御する技術の総称。細胞のみならず個体におけるタンパク質発現量や行動など様々な生物プロセスを制御できることから「遺伝学」という名称がつけられている。元来、光を利用していない生物に対しても適応可能である。
*4 発色団補助光不活化法(CALI 法)… Chromophore-assisted light inactivation の略称で、反応性の高い活性酸素種を産生しやすい蛍光分子や蛍光タンパク質を標的タンパク質と融合して細胞内へ導入または発現させ、光照射により標的タンパク質及びそれに近接する生体分子を不活化する手法のこと。


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