発電するゲル「ゲル–エレクトレット」の創成に成功 (生命科学院・ソフトマター専攻 中西尚志客員教授 )
~軽量で柔軟な運動センサとしてウェアラブルヘルスケア応用に期待~
北海道大学大学院生命科学院ソフトマター専攻博士課程の竪山瑛人氏、同大学大学院生命科学院の中西尚志客員教授、物質・材料研究機構の名倉和彦研究員、明治薬科大学の山中正道教授らの研究グループは、多くの静電荷を内部に安定的に保持できるゲル材料(ゲル–エレクトレット)を開発しました。このゲルを組み込んだ変形性に優れる電極は、人体の動きによって生じる程度の低周波の振動を電圧シグナルとして出力するセンサ機能を示すことから、ウェアラブルヘルスケア用途等への応用が期待されます。
ヘルスケアやロボティクスなどのソフトエレクトロニクスに活用が可能な、柔軟、軽量、且つ自己発電できる材料への期待が近年高まっています。外部電源を用いずに静電荷を持続的に保持できるエレクトレット材料は振動発電素子への応用が可能であり、静電荷を安定化するπ共役色素部位と柔軟な分岐炭化水素(アルキル)鎖からなる難揮発性の常温液体(アルキル–π液体)は、流動性のある液体エレクトレットとしてソフトマター機能学研究室が先導して開発を進めている新規材料です。このアルキル–π液体は優れた帯電特性を示し、さらに塗布や浸透などの方法による成形加工性に優れる反面、流体であるため液漏れ・染み出しなど電極作製時の固定化や封止に課題がありました。また、帯電量のさらなる増大による発電機能の向上も必要でした。
今回研究チームは、アルキル–π液体に微量の低分子ゲル化剤を加えることで貯蔵弾性率を4千万倍増加させ、固定化や封止が容易であるゲル(アルキル–πゲル)の創成に成功しました。さらに、このゲルを帯電処理することで得られたゲル–エレクトレットは、ゲル化によって内部に静電荷を閉じ込める効果が向上したために、母材(液体)と比較して24%の帯電量の増大を達成しました。また、ゲル–エレクトレットを組み込んだ柔軟な電極素子は、17 Hzの低周波振動に対し出力600 mV(液体素子より83%増大)の振動センサ機能を示しました。
今後、帯電特性(帯電量、帯電寿命)とゲル強度をさらに高めて素子性能を向上させることで、微弱な振動や様々な歪み変形に追従可能なウェアラブルセンサとしての実用化を目指します。また、本ゲル材料は回収し、振動センサ素子への再利用も可能なことから、サーキュラーエコノミーに資する材料としても期待できます。
本研究成果は2024年4月11日付で学術誌「Angewandte Chemie International Edition」でオンライン公開されました(https://doi.org/10.1002/anie.202402874)。
論文:Alkyl–π Functional Molecular Gels: Control of Elastic Modulus and Improvement of Electret Performance
Akito Tateyama, Kazuhiko Nagura, Masamichi Yamanaka, Takashi Nakanishi
Angew. Chem. Int. Ed. 2024, 63 (20), e202402874.
https://doi.org/10.1002/anie.202402874
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