北海道大学 大学院 生命科学院
北海道大学 大学院 生命科学院

記事詳細

記事詳細

歌いながら「拍子をとる」文鳥

ヒトが歌唱や音楽にあわせて拍手で拍子をと るような行動は,リズム同調として知られてお り,ヒト以外ではごく限られた動物種にみられる ことが近年明らかになってきています。しかし, 動物が人工的なリズム刺激などではなく,自然な コミュニケーション行動のなかで,発声と動作を どのように同調させているかという点についてはこれまでほとんど研究されてきませんでした。特 に,発声学習に基づく発声パターンと,それ以外の音声の同調はほとんど調べられていません。北海道大学生命科学院の相馬雅代准教授らの研究グループでは,文鳥の発声学習によって獲得される求愛歌と,それに同期して発せられる嘴音に着目し,両者が協調して発せられていることを見出しました。

(背景)
そもそも豊かな発声を持つ鳥類において,声以外の手段で音(non-vocal sound, mechanical sound)を発し,それがコミュニケーションに用いられる例は稀です。中でも,さえずる鳥(鳴禽類)は,「発声学習」により複雑で多彩な音を獲得するため,発声を介さずに身体で音を出す必要性は高くありません。しかし文鳥は,鳴禽類に属するにも関わらず,求愛時に歌(さえずり)に加えて嘴でクリック音を発することが事例的に知られてきました。

そこで、本研究では、この文鳥の嘴音は,ヒトがうたいながら拍手で拍子をとるように,求愛歌の特定のタイミングに挿入されているのではないか,という可能性について検討しました。また,歌が発声学習によって獲得されるのと対比して,嘴音が学習性であるのかどうかについても検討を行いました。

(研究方法)
飼育下の文鳥オス個体の発声・嘴音を録音・解析し,次の着眼点から解析を行いました。

・文鳥は嘴音をランダムなタイミングで発しているのか?それとも求愛歌のフレーズと対応しているのか?

・求愛歌は,父親の発声を聴いて学ぶ「発声学習」によって獲得されることが分かっているが,

— 社会的に隔離して育ち,親の発声・発音を聴く機会がなかった個体も嘴音を発するか?
— 父親から歌を学んだ個体は,嘴音の発音に関しても親と似たパターンを示すのか?

(研究成果)
文鳥の嘴音は,求愛歌の特定の音素の前後に発せられていました。さらに,この嘴音と求愛歌の関係は父個体と息子個体で似ていることが確認されました。しかし,社会的に隔離して育った個体の求愛歌にも嘴音は挿入されていたことから,嘴音を発する行動自体は学習性ではないと考えられます。ただし,特定の音素の発声に必ず嘴音が付随するわけではないことから,発声と嘴音はある程度独立して生じていると考えられ,文鳥は求愛歌と嘴音をうまく同調させて発している,といえるでしょう。

ソナグラム(音を視覚的に表す図)の一例

ソナグラム(音を視覚的に表す図)の一例

(今後の展開)
鳥の音声コミュニケーションは,これまで行動学及び神経科学の両面から非常によく研究されており,ヒトの言語コミュニケーションのモデルともなっています。しかし,ヒトの発話がジェスチャーを伴うように,鳥のコミュニケーションも,発声以外の発音や身体動作といった複数のシグナルを含んでいます。このような,複数のモダリティ(感覚の種別)にまたがる信号がどのように機能し進化してきたかは,いまだ大きな謎に包まれており,文鳥の嘴音の研究はそのひとつの手がかりとなるのではないでしょうか。

150521_sci_pr_fig2

研究論文名:The songbird as a percussionist: syntactic rules for non-vocal sound and songproduction in Java sparrows(「音を鳴らす」歌鳥-文鳥は非発声音とさえずりを統合的に発する)
著者:相馬雅代(北海道大学大学院理学研究院),森 千紘(北海道大学大学院生命科学院)
公表雑誌:PLOS ONE (http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0124876)
公表日:日本時間(現地時間) 2015 年5 月21 日(木)午前3 時 (米国東部時間 5 月20 日(水)午後2 時)

20150521 プレスリリース ダウンロード

Copyright(C) Hokkaido University All right reserved.