北海道大学 大学院 生命科学院
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炎症性皮膚疾患の病態調節因子が発現する機構を解明~乾癬をはじめとする難治性皮膚炎の治療法開発に期待~

北海道大学大学院薬学研究院の室本竜太講師,松田 正教授らの研究グループは,炎症性皮膚疾患の病態形成に関わるタンパク質である IκB-ζが,表皮角化細胞内で発現誘導される分子機構にリン酸化酵素である TYK2が役割をもつこと,また,TYK2 は炎症性サイトカイン のインターロイキン 17 が細胞に及ぼす効果(mRNA 安定化効果)と協調することで IκB-ζ 発現誘導を担うことを発見しました。炎症性皮膚疾患である乾癬では,病変部で高産生されているインターロイキン 17 が皮膚の角化細胞に作用することで,炎症物質の継続的産生や角化細胞の増殖促進をもたらし,病変が形成されると考えられています。また,このようなインターロイキン 17 の作用の一部は,IκB-ζ(インターロイキン 17 の作用を受けた細胞内で増加するタンパク質)のはたらきを介して起こることがこれまでに報告されていました。しかし,角化細胞内で IκB-ζ の発現が誘導される分子機構は明らかとなっていませんでした。

研究グループは,角化細胞における IκB-ζ 発現誘導には,細胞内で独立に起こる二つの事象の協調が重要であることを発見しました。一つ目は,リン酸化酵素である TYK2 と,TYK2 により活性化反応を受ける転写因子STAT3 からなるシグナル伝達経路が,IκB-ζ 遺伝子の転写(mRNA の合成)を起こすためのシグナルを伝えていることです。二つ目は,合成される IκB-ζ mRNA はもともと非常に分解されやすい性質(不安定性)を持っていますがインターロイキン 17 の作用がその不安定性の解除(mRNA の安定化)を引き起こすことです。

本研究により,これら二つの事象のどちらか一方のみを抑制するだけで,インターロイキン 17 による IκB-ζ 発現誘導が低下することと,効率的な IκB-ζ 発現誘導には,両者の協調が必要である
ことが明らかになりました。これらの知見から,TYK2 の機能を抑制することやインターロイキン 17の持つ mRNA 安定化作用を抑制することによって,インターロイキン 17 が引き起こす炎症反応を抑制できる可能性が示唆され,乾癬の新たな治療薬開発の手掛かりとして期待されます。

なお,本研究成果は,2019 年 5 月 16 日(木)公開の ImmunoHorizons 誌に掲載されました

論文情報
論文名 IκB-ζ Expression Requires Both TYK2/STAT3 Activity and IL-17–Regulated mRNA Stabilization(TYK2/STAT3 シグナルと IL-17 依存性の mRNA 安定化が IκB-ζ発現調節を担う)
著者名 室本竜太 1,多和佳佑 2,大垣内優依 2 ,佐藤亜美 2,斎野由佳 3,平島洸基 2, 美濃口広弥 2,鍛代悠一 1,柏倉淳一 1,下田和哉 4,織谷健司 5,松田 正 1 (1北海道大学大学院薬学研究
院,2 北海道大学大学院生命科学院,3 北海道大学薬学部,4 宮崎大学医学部,5 国際医療福祉大学大学院医学研究科)
雑誌名 ImmunoHorizons(免疫学の専門誌)
DOI 10.4049/immunohorizons.1900023
公表日 2019 年 5 月 16 日(木)(オンライン公開)

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