北海道大学 大学院 生命科学院
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固相のRNA分子倉庫が液相のタンパク質合成工場に ~細胞が必要な時期に必要なタンパク質を合成する新たな仕組みを解明~

固相のRNA分子倉庫が液相のタンパク質合成工場に
~細胞が必要な時期に必要なタンパク質を合成する新たな仕組みを解明~

生命科学院生命システム科学コースの小谷友也准教授と博士課程の佐藤圭祐さんは、動物の胚において発生に必要なタンパク質を合成する新たな仕組みを解明しました。

ほぼ全ての動物は、受精後に様々なタンパク質を新たに合成し、発生を進めます。受精直後の一定の時期は、受精卵にあらかじめ保存されたmRNAから全てのタンパク質が合成されます。しかし、これらmRNAはどのように保存され、どのように必要な時期にタンパク質を合成するのか、よく分かっていません。

本研究では、小型魚類のゼブラフィッシュを用い、mRNA分子の倉庫として働く顆粒状構造を受精卵に発見しました。これらRNA分子は固体状(固相)の特徴を持ちましたが、受精後に3時間たった胚では液体状(液相)の特徴に変化しました。固相状態の顆粒ではmRNAからタンパク質は合成されていませんでしたが、液相に変化した顆粒ではmRNAからタンパク質が活発に合成されていました。液相のmRNA顆粒を拡散させると、mRNAのタンパク質合成が検出できなくなりました。このことから、液相様の顆粒構造はタンパク質の合成工場として働くことが示されました。同様の仕組みは、マウス胚においても存在することが示唆されました。

タンパク質の合成は、全ての生命現象の進行に重要です。本研究で明らかとなったタンパク質合成を調整する仕組みは、さまざまな生命現象の進行を支えている可能性があります。

なお、本研究成果は、2022年6月17日(金)公開のiScience誌にオンライン掲載されました。

また詳細につきましては,北大プレスリリース(https://www.hokudai.ac.jp/news/2022/06/rna.html)にも掲載されております。ぜひ併せてご覧下さい。

論文情報

論文名 Identification of embryonic RNA granules that act as sites of mRNA translation after changing their physical properties(物理的な特性を変化させたのちにmRNAの翻訳の場として働く胚性RNA顆粒の同定)

著者名 佐藤圭祐1、酒井萌子1、石井晏和1、前畑香織1、高田裕貴1、安田恭大2、小谷友也1、31北海道大学大学院生命科学院、2広島大学大学院統合生命科学研究科、3北海道大学大学院理学研究院)

雑誌名 iScience(生命科学・物理科学・地球科学の総合誌)

DOI 10.1016/j.isci.2022.104344

公表日 2022年6月17日(金)(オンライン公開)

 

図1. 胚性RNA顆粒(上)とゼブラフィッシュ卵母細胞・卵割期胚(下)。卵母細胞において、胚性RNA顆粒は翻訳を抑制されたmRNAの倉庫として働く(左)が、卵割期にはタンパク質合成の工場として働く(右)。その役割の変換には固相状態から液相状態への相転換を伴う。

 

図2. ゼブラフィッシュ受精卵と胚発生におけるpou5f3 mRNAの分布様式。上段に挿入された写真は胚の明視野の写真。ゼブラフィッシュ受精卵は、受精後に細胞質を動物極に集積させる。この領域は胚盤と呼ばれ、卵割はこの領域で進行する。(上段)受精卵と胚の蛍光実体顕微鏡像。(中段・下段)受精卵とそれぞれの胚における共焦点顕微鏡像。pou5f3 mRNAは受精卵と卵割期胚の細胞質において、常に顆粒状構造として検出された。スケールバーはそれぞれ(上段)100 µm、(中段)20 µm、(下段)5 µm を示す。

 

図3. ゼブラフィッシュ受精卵と胚におけるpou5f3 mRNA(緑)と新規に合成されたPou5f3タンパク質(赤)の同時検出。(上段)受精卵(0時間)と、卵割期胚(3時間)の細胞質。スケールバーは10 µmを示す。(下段)卵割期胚(3時間)における囲み部分の拡大図。新規に合成されたPou5f3タンパク質は、pou5f3のRNA顆粒と共局在する。グラフは、a、bそれぞれの矢印方向に見た蛍光強度変化をグラフ化したもの。


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